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色濃く澄んだ青空から、白い光が強く注ぐ京都の朝に、私は旅行鞄を持ったまま再び歩き出しました。
――千本今出川からなら、201番のバスで百万遍に行ける。
十年ほど昔に住んでいた時の記憶と知識で、私は京都の街の中を迷わずに歩けることを
今になって役立てていることを感じます。

次の目的地は決まっていました。百万遍、今出川と東大路の交わる十字路はそう呼ばれ
ただの交差点の地名と言うよりも、京都大学の存在する場所として、知られている場所になります。
鴨川に沿って地下を走る京阪電車の終点駅、出町柳から少し奥に入った場所。
そのあたりは、私が京都で初めて部屋を借りて、二年間を過ごした地域でもありました。

土地勘は全くない状態で、どうして通っていた外大からバスで40分もかかるような左京区に
部屋を借りようと思ったのかと言うと、ただ単に、「仲良くない同級生に遊びに来られたくなかった」から
という理由だったのですが、そんな理由でも、私は京都の中でも、出町柳に住むことができたことは
とても幸運だったと今になって思います。今から京都に引っ越して、部屋を探すとしたら
私は再びまた左京区に住みたがると思います。

京大の向かいにある古いパン屋が併設された喫茶店『進々堂』は、立派なブーランジェリーとして
チェーン展開をしている『進々堂』とは別の存在で。私は出町柳に住んでいる時に
少しの背伸びする気持ちを胸に、休日の朝ごはんを自転車に乗って食べに来ていた場所でした。
時折言われる「京都はパリに似ている」という言葉で、アカデミックな気難しさのある静謐さ、のような
そんな空気を持っているのは『進々堂』が最もたる場所なのかもしれないなんてことを思います。
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有名なお店なので、観光客も多いのだろう、と覚悟をして久しぶりに見る進々堂の古い扉に手を掛けると
「全席禁煙」「撮影禁止」という紙が掲げられていることに気付きました。

お客を逃がすこんな文言を店の前に掲げてしまうというところが京都らしさかもしれないと思い
朝ごはんの後に煙草を喫えないことと、せっかく訪れた場所を写真付きで紹介できないことへ少しの
落胆を覚えながら、私は「この緊張感のある張りつめた空気を、私は訪れたかったんだ」と
帰って嬉しいような、懐かしいような気持ちになったことを書いておこうと思います。

京都を訪れる度に私が必ず頂く「美しい朝ごはん」はイノダコーヒの『京の朝食』ですが
ここ、京大北の進々堂で頂く朝ごはんも、格別に清楚で美しい食事だと思っています。
パン屋だということに加え、カレーもあるためメニューに幅はあるのですが
私が頼むのは『プチデジュネ』という名前のセットです。
どうしてプチデジュネに憧れのような執着を覚えるのか、理由は思い出せないのですが
雑誌か何かで「憧れの美しい朝ごはん」として紹介されていたものを読んだような気もします。
付された言葉を裏切らない慎ましく清楚な美しい食事、そしてそれを頂く場所としての重厚で清楚な緊張感。
そういったものに、私は恋をしたのだったかもしれません。

――京都に住んでいた頃は、本当に自分に自信がなくて劣等感が強かったから、すぐに何かに憧れて、それに似合う自分でなければならないと、強く自分を戒めて雁字搦めにしてしまっていたことを不意に思い出します。

それは苦しい時代でした。京都には私を背伸びさせた場所が多く存在し、私は苦しくても心から「こうあるべき」というものと向かい合うことのできた禁欲的な時代だったとも思います。それは京都という土地の持つ揺らがぬ美意識や文化が、私を律してくれたということなのかもしれないと今になって思います。

5月の朝の、幾分ひんやりとした空気が静かに沈殿する店内は、私の記憶の通りの場所でした。
店内に6つほどある黒田辰秋の作という十数人が腰掛けられる大きさのテーブルには
視線を交わさない場所に座った来客が数人、それぞれが本を読んだりして朝の時間を過ごしています。

木造校舎の図書室のような店内中央に、一段高くなっているカウンターはタイル貼りで
飾り気のない二人の女性が楚々とした様子で働いていました。

「プチデジュネを」
「コーヒーにミルクを入れても」
「はい、大丈夫です」
小さく会釈をして、カウンターへ戻る女性の背中をぼんやりと視線で追いながら
この会話をすることも、久しぶりであることをぼんやりと思いました。
京都の珈琲は、濃く、重く、そして店によってはミルク入りであること。
私が珈琲というものの味を覚えたのは、働いていた今はもうない名曲喫茶みゅーずの
ずっしりと重く、砂糖を加えるとねっとりという形容すら似合う濃さの珈琲でしたが
お客として頂く一杯として、あの頃に飲んでいた珈琲は、例えばフランソアの
例えばイノダの、例えばスマートの、ミルク入りの珈琲でした。
――そういえば、ここもミルクの入った珈琲を出す京都の喫茶店なのだった。
そんな記憶の中に辿りきれていなかった、けれど、とても良く知っている香りの
ミルクの油分を少し含んだ珈琲に、私は、遠い日の記憶を見たような気がしました。

間もなく手元に届いた木製の盆に乗った朝食は、イングリッシュマフィンと珈琲
それにガラスの器に入った野菜添えのあっさりとしたポテトサラダです。
まだ温かいマフィンを両手に持って、指先にざらつく粉をこぼさぬよう注意を払って一口齧ると
塗られたばかりの溶けたバターと、ぎっしりとした密度でマフィンに閉じ込められた小麦の香ばしさが
鼻の奥をくすぐるのを感じます。
私がまだ、少女と呼ばれても相違なかった頃に、清楚さに憧れた慎ましく美しい朝ごはん。
この場所に、このお店が続いて行く限り、私は少女の頃の片思いに再会することができるのだと
そんなことを考えたように思います。
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by pinngercyee | 2014-05-23 05:49 | 京都
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朝5時半に京都駅八条口に到着。朝日の中、バスから降りて朦朧とするのは毎度のこと。
駅のトイレで歯だけ磨きながら(お風呂に入りたいなあ、)と思うものの
京都タワーの銭湯が開くのは朝7時なのです。待つにしては一時間半は長いし
前回、開店時の雪崩れ込む勢いに乗り遅れた私は蛇口が取れず悲しい思いをしたので
今日は(漫画喫茶のシャワーでいいや、身支度も兼ねてちょっと休もう)と四条河原町へ。
京都駅周辺にはシャワーのある漫画喫茶がないのです。あったら繁盛すると思うのだけど。

今回の目的は、3日にあるミステリ研の式典に出席することが目的だけど
ここのところ足を運べていなかった京都にせっかく行くんだから!と欲を出して
一日早く前乗りしたのです。

「住んでた時に行ったきりとかの好きだった場所とか当時から憧れてた場所とか
噂に聞いてまだ行ったことないまま気にしてる場所とか
 普段のコースに含まれていない場所に行く!」
という野望を込めて。

ゴールデンウィーク最中なだけあって、ホテルが今回全然取れず
宿は、なんとか確保した堀川御池のゲストハウスでチェックインが16時以降なので
それまでの時間を、できる限り飛び回る覚悟で、私はバスの一日乗車券500円を買いました。
市バスは私が住んでいた当時、区間内なら距離に関係なく一回の乗車について220円でしたが
今回久しぶりに来てみると230円に値上がりしていて驚きました。消費税の関係かしら。

仮にも京都に5年ほど住んで、日常的に市バスを使っていた私ですが、未だに市バスは乗る度に
「小銭あったっけ」と本気で焦ります。多分、京都の人に言ったらこれ共感してもらえると思う。
なので、2回以上バスに乗る予定があるなら、もう500円の一日乗車券買ったほうがいいです。
差額の40円であの焦りのストレスから解放されるなら安いものだと思います。ほんと。

*

17番のバスで京都駅から四条河原町に向かい、四条河原町で下車。
漫画喫茶でシャワーを借りて、身支度をして、51番のバスに乗って千本今出川へ。
目的地は、喫茶『静香』です。ソワレやフランソアと並ぶ京都の老舗の名店の一つですが
場所が千本今出川という私の行動範囲外にあることもあって、京都に住んで居る頃に訪れた以来
店内の様子は瞼の裏に鮮明に浮かべられる割に、一度も訪れることができずにいた場所でした。

かつては花街として栄えた上七軒で、古くから時間を重ねてきた静香の店内には
菫の花のような可憐な少女趣味の滲む『静香』にしか存在しない情景の中、
この場所に通って珈琲を飲んだ芸者さんの名前を記した団扇が飾られていたことを思い出します。

*
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静香の開店は7時、と食べログに書いてあったのに、朝9時に店の前に立った私の前には
シャッターが閉まり、鍵がかかったままの姿があって、バスに揺られて辿りついた千本今出川で
私は一人立ち尽くしました。
(店を閉めてしまったのかしら、定休日だったかしら、いや、まさか)
と動揺しながら、それでも十年以上ぶりに見る静香の外観に懐かしさを感じて
(どうしよう、ここまで来たものの、正直つぶしがきかない場所だし)
シャッターの閉まった静香の前で、途方に暮れていると、私の背後にタクシーが一台止まりました。
「あらー、早くいらっしゃったんね、ごめんなさいねえ、開店十時からなのよ」
タクシーから降りてきたおばあさんは柔和に笑って、ゆっくりと歩を進めながら
静香の入口の鍵を開けました。
「開店までまだかかるけど、よかったらお入りになる?」
摺り足で店内へ歩を進めたおばあさんが、こちらを振り向いてそう言ったので
旅行鞄を下げたまま、店頭でぽかんと彼女を見送っていた私は我に帰り、肯きました。

締め切られていた店内には、人の気配のなかった場所特有の空気がありました。
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いつもは店頭に出されている看板がしまいこまれていて、何十年もの時間を重ねた壁や
古い電車の席にも似た懐かしい椅子や、細いテーブル、それらを含んだ見覚えのある場所が
遠く色褪せそうになる記憶の中の情景のままに、目の前に存在していました。
この場所を初めて訪れるためにバスに乗った十八歳の休日や、当時読んでいた本のことや
初めての場所を訪れるのだからと買ったばかりのブラウスを初めて着てみたことなどが
ごく先週の出来事のように、鮮明な記憶として瞼の裏を過ぎりました。
でも先週の出来事と言うにはそれは、鮮明に湧き返した記憶の実感とは裏腹に、その時の記憶は
子供のころに見た映画のワンシーンの記憶のように、細部が滲んでいる情景でした。

消えてしまった記憶の細部を補うように、私は開店前の人の居ない静香の店内を見回しました。
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ガラス窓越しに見える裏庭の緑。奥の席の、広めに設えられているビロード張りのソファー。
天井の色。備品の並ぶカウンター。床に響く足音。
――記憶の空白を埋める作業は、自分が生きていることを確かめることだわ、
そんなことを思ったことが印象に残っています。
店内を懐かしく思って見回している私に、おばあさんは
「まだ開店まで時間がかかるの、お待たせするのは悪いから、良かったら他を見てから戻っていらっしゃい」
と声を掛けてくれました。時計を見るとまだ午前九時を少し回ったところです。
「十時まで一時間くらいあるから」
そう言ってくださる柔らかい声に、今回の滞在の中で必ずもう一度この場所を訪れることを
約束するのもいいのかもしれないと思いました。
「じゃあ、そうします。もう一度、来ますね」
そう言って私は旅行鞄を肩に掛けました。
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by pinngercyee | 2014-05-23 05:46 | 京都
いってきました。一応、一応OGの端くれなので!
当時、あまり真面目な会員ではなかったものの、一回だけ犯人当ても書きました。実は。
今考えると、初めて完結まで小説を書きあげて、初めて人に読んでもらったのって、それです。
厳しい先輩諸氏から「思ったよりちゃんとしてた」というコメントを頂けて
一気に気が抜けて嬉しかったことを憶えています。

そんな話はよいのです。30周年の時は私自身バタバタで開催自体を知らなかったというのもあり
今回が初めての式典参加だったので、「式典だって!パーティー!!おめかしせねば(@@)」と
焦っていたのですが、そしてツイッター上で綾辻さんに「普通でいいと思うよ」と宥められつつ
(でもパーティーだし!OBってみんな大人だし!派手ではなく綺麗めにしていかねば)と
結婚式に着るワンピースで、パールのネックレスしてヒール履いて行ったら、見事に浮きました。
式典自体は京大の講堂で行われる立派なものだったのですが、現役生はジーンズ履いてるし
OBの人も小奇麗とはいえチノパンみたいなラフな格好してるし、一人結婚式状態の私浮く浮く。

初対面の人の多い立食パーティーの会場で、話す人に「あなたは誰?何でここに居るの?」と
OGだと思ってもらえない状況続発でとても寂しい思いをしました。コンパニオンじゃないです。
「私、浮きましたね」というと、近くにいらっしゃった綾辻さんに「だから言ったのに」と
更に窘められるという。
在籍当時以来に久しぶりにお会いしたお姉さんに「式典て言ったって、ミステリ研だよ?」と言われ、「そうでした。忘れていました」と答えたことを思い出します。

久しぶりにお会いした先輩諸氏、同期諸氏の皆さま、あんまし変わってなくて元気そうで
話すととても面白くて、いろんな方にお会いできて嬉しかったです。
十年以上前に二年ほどだけ在籍した幽霊会員の私を憶えていてくださって有難うございます(;;)
こんなんですが元気にやっています。地道に純文学を頑張っています。。。

*

式典は、創立メンバーの方々のトークから、出身者の歴史を辿って、出身作家のトークへ移り
最初は麻耶さんと法月さんと円居氏と森川氏の四人だけで始まったトークが綾辻さんの登場により
我孫子さん小野さん、出身編集者諸氏を前方に迎え入れる状況になって、とても面白かったです。
そうやって話を聴いていると、40周年と一言で言っても、毎年色んな人が入会し卒業して
ここに居る人たちは推理小説研究会に入ってに大学時代をミステリに捧げることでその後の人生も変わった人たちなんだなあと、とても感慨深い思いがしました。
私はミステリ研に入ったことで「好きだけど書くのは、私には無理だ(難しすぎる)」と線引いたことで逆に開き直ることができて、純文学を書こうという覚悟ができたので、逆の意味での影響を受けたと言えるのかもしれません。

余談ですが、ミステリを書くことって、数学的な構成能力が必要だと思うのです。
書く前に仕組みを全て組み立てて、それをスマートにひも解くための構築・操作に徹するというか。
私は、目の前にある紐を途切れないことを願いつつ、手繰り寄せるような書き方で小説を書いているので、その手法や伏線の張り方や、鮮やかな手際の美しさなんかに感嘆するばかりで
全く真似ができないことをここに白状致します。(そういう意味でマズロウマンションはがんばりました。あれは私なりの謎解き小説というものへの試みだったので)

トークが終わり、休憩を挟んだ後、課題図書毎のグループに分かれての感想を言い合う回になり
私は綾辻さんの『十角館』を再読したので、そのグループへ。一人ずつが感想を述べ合う中で、途中から綾辻さんご本人が「せっかくなので」と椅子を持って輪に入り、現役生OBともども場が震えたことを経て、私の番が来てしまい、清廉な潔さのミステリを読むこと自体がとても久しぶりで、あの一文に初心のままに再度震えたこと、そしてその一文のために構築された世界の、描かれていない裏側での情報の扱いのスマートさと正しさに、改めて感嘆したことを伝えました。

「叙述にしてもね、他のトリックにしても、もっと言ったらミステリだけじゃなくて小説全般に言えることだと思うのだけど、本当に、好きで好きで朝から晩まで考えるくらいのもので、書いたものでないと、面白いものにはならないよ」という言葉がとても印象深かったです。

*

その後の立食パーティーで麻耶さんが解説文を寄せている『フーダニットベスト』を購入し、麻耶さんを捕まえてサインしてもらい、ついでに一緒に写真を撮ってもらうというようなミーハーさを発揮して(久しぶりにお会いした麻耶さんは花柄のシャツを着ていて、なんだかベテランミュージシャンみたいな佇まいになっていましたが相変わらずでした。お元気そうで何より。憶えていてくださって嬉しいです!!そして写真は貼りません!!)、色んな方とお話していると、創立メンバーの人に面白がってもらえ、二次会に呼んで頂けたので、厚かましく乗り込んできました。楽しかった!!
三次会は創立メンバーの方を含んだ少人数でブルースバーに行き、ワインを飲みながら終電間際まで女子会のような話をしてきました。皆さま、大人で真摯で可愛らしくて大変楽しかったです。

お会いできた方、有難うございました!!またお会いできる機会を楽しみにしております!!(後輩より)
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by pinngercyee | 2014-05-23 05:30
少し時間が開いてしまいましたが、お礼とご挨拶を!
今回の第18回文学フリマも大変充実して過ごすことができました。
新刊『スノビズム』に加え、今回初めて参加させていただいた『第5版文学フリマ非公式ガイドブック』、エセーを寄稿させて頂いた90年代ロックアンソロジー『6×9=53+1(ロックはゴミの一つ上)』も、予想より多くの人の手に渡り、楽しんで頂けたような気がしています。
新刊を楽しみにブースを訪ねて下さった方、本当に、嬉しかったです。有難うございました。

前回ぶりにお会いできた方、今回初めてご挨拶できた方、文学フリマ中も打ち上げの席でも
多くの方とお話できて、本当に楽しかったです。有難うございました。
今回ご縁のあった方々、以降、どんどん仲良くなりましょう。遠慮せずどうぞ(^u^)

*

当日発売した新刊『スノビズム』は、タコシェに納品しましたので
現在は、タコシェで購入が可能です。通販もできるよ!
前回の新刊『マズロウマンション』は、通販サイト内にページを作って頂いて(!)
取り扱い頂いているので、嬉しいので見るだけ見てください。えへ。
(手元にない既刊冊子もまだ数冊ずつ在庫あるようです。気になる方はお早めに♡)

【タコシェ店頭の場合】
お願いしている種類が多いため、店頭には見本誌のみ出ている状況なのですが
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(↑見本誌は、タコシェ店内入って左手の棚の「創作文藝」の棚のこの辺、これです)
お店の人に声をかけてもらうと、在庫を出してくれますので、遠慮せず!宜しく!お願いします!!
見本誌のほうは遠慮なく見まくってください。気に入ったらでいいです、買うのは。。

【通販の場合】
タコシェにメールを送ってもらえると、通販サイト上に上がってない商品も通販可能なのです。
私の既刊は『マズロウマンション』以外その扱いなので(そして残部僅少なので)
お早めに、どうぞ、ご遠慮なく。再販未定です。でも同じ形では作らないと思う。

★今回参加した90年代ロックアンソロジー『6×9=53+1(ロックはゴミの一つ上)』も
残部冊子をタコシェ他に委託販売を予定しているそうです。
あんまり多くないそうなので、こちらも気になってる方はお早めにどうぞ。
入荷したらツイッターあたりでお知らせできると思います。

感想など、もし頂ける時は、sanguria.afternoon@gmail.comまでお気軽に♡
ブログなどに書いてくださった場合にもお知らせいただけると嬉しいです。
おまちしてます!
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今回、第18回文学フリマにご用意した新刊『スノビズム』について。
A5、40ページ、500円、2014/05/05発行

これは以前、WEB文芸誌窓辺に掲載したことのある作品なので
当時読んでくださった方も居ると思います。
今回、冊子にするにあたって、懐かしく思ってくださる方が居ると嬉しいなと思います。
犬尾春陽として、初めて『恋愛小説』というものを書いた作品です。
手に取ってくださった方に、瞼の裏の甘い幻と祈りが届きますように。

【作品紹介】
「N」は美しい青年だった。誰よりも優秀で、他人に劣等感すら覚えさせるような彼が、自室にこもり個展に向けて一人きり絵を描き続けている「私」の部屋を、夕食を持って毎夜訪れるようになった日々。
 完璧な人間を演じる見た目からは分からないNの弱さ。子供のように笑う一人の青年としてのNの無防備さ。結婚が決まっている年上の恋人には見せない彼のそんな一面を友人として受け止めながら、真意の見えぬ彼の来訪を制作の邪魔だと感じていたはずの私はいつしか、Nと過ごす時間が特別なものになっていることに気付く。
絵を描くことを軸に人生を送る「私」と、社会人として客観的な価値観を自分に律するN。違う世界で別のものを見て生きる他人であるはずなのに、誰よりも身近に自然に笑いあえるということの尊さ。近いうちに失われる特別な時間と、叶わないのが分かっている恋を互いに諦めるという、甘くつらい悲しみと祈り。


【抜粋】
「僕を羨んでくれる人が居るとすれば、それは僕のことを何一つ知らない人だと思う」
 先ほど、眠り込んでしまう前にNの言った言葉。嘘と虚栄で塗り固められているとNが言うN自身の虚像は、ピンナップにされた昔の映画のスターの笑顔のように隙がなく整ったもので、Nは優秀であるが故にその虚像を虚像と誰にも見抜かせて居ないのだ。

 Nはどんな夢を見るのだろう、と毛布をかけながら無防備に眠るNの整った寝顔を見下ろして思う。無防備さを許さない虚像の仮面をつけたまま暮らすNは唯一仮面を外す眠りの中で、どんな景色を見るのだろう。内面に芸術への熱を静かに秘めながら、その熱はNをいつか内面から焦がし始めるのかもしれない。私は絵を描くことで、熱を外へ逃がすことができるけれど、Nは熱を逃がすすべを持たないのだ。Nの中に煮詰められてゆく熱をもった景色はどのようなものだろう。煮詰める間もなく逃がしてしまう私の中にあるものよりも濃密で美しい景色をNは胸の中に秘めている。私の中には存在しない人生の時間で煮詰められた濃さの景色を、描くことができたら。私はいつかNの見る夢の景色を絵に描いてみたい、と思った。


5月5日第18回文学フリマ、宜しくお願いします。【A-15】でお待ちしてますヽ(´▽`)/
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