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先日、文学フリマでお隣のブースだった『西瓜鯨油社』の牟礼鯨さんより
拙作『月夜』『領域』について、とても分かりやすく有難いレビューを頂いたので
大喜びしつつ転載させて(自慢させて)頂きます。牟礼さんありがとうございます!(^v^)



『月夜』について
実は夏目漱石の顔を思い浮かべながら先生の「アナベルの夢」のくだりを読んでいた。そして、冷徹な筆致でありながら夢と現との境を徐々に曖昧にぼかしていく語りに魅了される。現で読んでいたかと思ったら、いつの間にか夢の中で続きを読んでいた。夢日記を書けばわかるけれど、夢で出会った少女というのはそれが誰であれ、そして誰でもなくても、特異な存在である。それは夢日記仲間の作中人物・茶倉遊女で例示するまでもなく、そうなのだ。その特異点に因ってその夢を去りがたくなり、ずっと夢に浸っていたいと思うくらいに。もう二十三時になった。鯨もあの娘に会いにいくとしようか。「それではあなたの望む夢だけを」この本を手渡されたとき、そう呪われたような気がしてならない。

引用元:西瓜鯨油社『月夜』


『領域』について
7頁に「この子、どうせ喋れないんだもの。わたしが何を言ったって一緒よ」という台詞がある。これ、すごい。自分が何も「傷つく」ようなことを言われないのなら、自分は誰かを「傷つける」ような言葉を吐いてもいいのだという発話者の傲慢さをたった一言で巧みに表現している。そして「お金のことは大丈夫」なのに「どこの家も他人の娘を育てるような余裕はない」という一瞬矛盾のように読める箇所は読者を立ち返させる表現だ。こういう場合、一般にはお金だけ預かって例えば寝る前の虫歯予防の蜂蜜水を単なる砂糖水にすり変えるインチキをしてでも費用を浮かせて私腹を肥やし、その娘が虫歯になるのも構わず放っておく。そんな一般性〈里子〉理論を打ち破るほど、少女はこの一族に疎まれていることがこの文から浮かび上がる。なかなかの技巧派である。犬尾春陽、抜きん出た語り部だ。
 どういうキッカケになるのかは人ぞれぞれなので分からないけれど、男性は一生で一度だけこの作中のような少女を抱えることになる。不幸そうで、誰からも愛されていなさそうな、可哀想に見える少女を。だから彼女には自分が必要なのだと男は勝手に思いこみ、一生に一度だけの本気でその少女を愛する成り行きになる。しかしその少女を愛する人は他にちゃんといて、そして少女が在るべき場所もちゃんと別に用意されてあって、そして男はやがてすべてを奪われ絞り尽くされた後で手痛く裏切られる。ドストエフスキーの"Белые ночи"やフランス映画の「Quatre nuits d'un rêveur」を思わせる後味の悪さにもう一人の鯨は泣いたと聴く。


引用元:西瓜鯨油社『領域』



どちらに関しても、解説文を書く度に私自身どうしようと頭を抱える類の物語の側面を
未読の人にも伝わる形で、簡潔にざっくばらんと切り開いてくれていて
(そして有難いことに私のことを褒めてくれていて)
私自身が、目から鱗が落ちるような気持ちで感心してしまいました。
文章書きとしても文章読みとしても腕をお持ちの牟礼さんの鮮やかな捌き方を
有難い言葉に恐縮しつつ、ただ目を見張らせて見守っているような気持ちです。
すごいなー。すごい。有難いことです。本当に有難うございました。

今回の文学フリマ、牟礼さんとブースが隣だったのも、私の幸運のひとつだと思いました。
牟礼さんに頂いた本、まだ読めていないのですが(すいません)、読んだら感想上げさせて頂きます。



ちなみに牟礼さんのブログの方で
「痴漢はお好きですか?」
と問われたと記載がありますが、
私はその問いに
「捕まえたことならあります」
と答えております。
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by pinngercyee | 2012-11-26 00:19 | 日々
先週日曜日に行われた文学フリマ、無事に終了しました。
お会いできた方、お話しできた方、気にかけて下さった方、皆様本当に有難うございました!
多くの人にお会いでき、とても楽しく、あっという間の一日でした。

次回、2013年春は大阪と幕張で開催とのことで、私はまだ何も考えていませんが
今回がとても楽しかったので、また出たいなあと思います。
決まったらまたこちらでお知らせしますので、宜しくお願いします♡



今回、新刊『ワルツ』『乙女椿の咲く季節』を発表したのですが
多くの方に手に取って頂けて、冥利に尽きる思いでした。
おひとりおひとりに、愉しんで頂ければ、本当に嬉しく思います。

お預かりしたゆきめちゃんの『Lull』も、多くの人が手に取って気に入ってくださいました。
この本が本当に素敵だからと半ば強引に「預からせて!」と頼んでみて良かったです。
ゆきめちゃん、お手伝いにも来てくれて有難う。お疲れ様でした!
(ゆきめちゃんが文学フリマのことをブログに書いていたので、リンクしておきます。)



この日、発表した『乙女椿の咲く季節』について
詳細で嬉しい感想が届いたので、一部引用させて頂きます。

此処で描かれた、仕事と云うものの本質、と云うのは、どの様な場所にも通じるもので、労働者の生きた声、とも云えると思います。
現代のプロレタリア文学、と私は感じました。
そして、「受付」と云う、外部からは何をしているのか判らない、と云う職種を挙げている点でも、実に興味深いです。
一つの仕事を。細かく書く、此は文学上では実に大切な事です。

また、其だけで無く、大卒の女性が、一人の労働者として成長する過程が、鮮やかに描かれていて、女性と云う、一種独特の集団、其の異様さを、同性から見る、と云うものも、本作では重要と思います。
社会的に、今、問題とされている点にも触れている、と私は感じました。
多くの作品は、敗者、脱落する人を描く今日で、寧ろ、勝者の歩みの重たさを描く、と云う側面も実に面白かったと思います。

引用元 飄々雪浮~はてなヴァージョン


『プロレタリア』という言葉に、すとん、と納得しました。私なりのプロレタリア、なのかもしれません。
おそらく、そうなのだと思います。
今まで「美しいものを形にしたい」という一心で描いた作品が多い中
『乙女椿』に関しては「本当のことを形にしたい」という衝動に背中を押されて書きました。
「私にとっての本当のことが、どこかの心細い誰か、必要な人に、届いてほしい」という思いです。

正直に言って、文学フリマの当日は、『乙女椿』を人に薦めませんでした。
何故かと言うと、「私にとっての本当」が、誰かにとっての本当だとは限らないという不安と
今までと違う「綺麗なものを書こうとしていない愚直な作品」だという無防備な思いが
幾分、私を弱気にさせていたのだと思います。

だけど、上記・松尾氏の言葉を頂けて、初めて『乙女椿』を書いたことを誇らしく思えました。
私にとっても、『乙女椿』という作品にとっても、上記の言葉を頂けたことは大変な幸せだと思います。
230枚を超す少々長く、厚みのある冊子になりましたが、この本が誰か、必要としてくれる人のところへ
安寧な生活から、無防備なまま社会に放り出される瞬間に感じたことを忘れたくない人のところへ
届くことを、改めて祈りたいと思いました。
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by pinngercyee | 2012-11-23 22:02 | 日々