LIPHLICH 曲紹介

先日ここで「引っ込みつかないくらい大好きになってしまった」と記事まで書いたLIPHLICHですが
友人に向けて「LIPHLICHかっこいいから!私、全曲紹介やるから!」と宣言した手前
嘘になる前にやっちゃおうと思います。

CDのライナーノーツの仕事をしたことはあると言えども
音楽解説できるほどの知識も語彙もあるのかどうか未だに甚だ心許ないですが
好きなものはちゃんと良さを伝えられる文章が書けますように祈るばかり。頑張ります。



では先日のブログで触れた再録して再発売されたフルアルバムから。
『SOMETHING WICKED COMES HERE AGAINST YOU』



1. リフリッチがやってくる
イントロで行進を思わせる足音が近づいてきます。
重厚な導入部に続き、場の空気が染められたタイミングで「サーカスがやってくる」という
フレーズが高らかに宣言されます。
このタイトルなのに、一度も「LIPHLICHがやってくる」とは言わないのが格好いい。

2. 猫目の伯爵ウェンディに恋をする
二曲目。ファンじゃない子がライブで見かけて「猫目の伯爵が好き」と感想を言うくらい
おそらくライブを重ねてきた中での代表曲の一つなんじゃないかしらと思います。
歌詞を読まない状況で聴いていて、何度聴いても「IT社長が火の輪をくぐる」としか
聞こえないフレーズがあって、長いことひっかかっていたのですが
歌詞を見てみると本当にそう書いてあってのけぞりました。
猫目の伯爵目線での最後の言葉「しょうがないか、だって君も人間だから」の存在感も特筆。
【追記】猫目の伯爵について考察記事を書きました。

3. グルグル自慰行為
導入部より体が左右に振れてしまうくらい、軽快で耳馴染みの良いうねりがあります。
私、この曲がこのアルバムで一番好きかもしれません。
「音の出ない楽団の少年たち12人(途中で11人に減る)」が登場人物です。
「暗いガーデンの空と 君と かがり火焚いて廻る」というフレーズの薄暗い愛おしさ!

4. 僕らの使い捨て音楽
軽快なドラムロールに、軽快なピアノとギターが強い満ち引きを作るこの歌は、最初聴いた時
「なんつーメタ視点な歌なんだ」と驚いたものでしたが、このタイトルを冠しつつ
自分たちの音楽に誇りを持ちつつ、自分の作品を大切に演奏する姿勢を保っていて
潔さのような覚悟を封じた歌なんじゃないかと思うようになりました。
「星屑の木箱 中身は何でしょう? 価値も分からない奴が値札付ける」
「逆らう者には花束をあげよう、従う者には紙とペンをあげよう」と軽快に歌いこなす後に
「星屑の木箱 中身はホラーショー 価値を求めた奴が匙を投げる」
「価値を見付けたが勝ち 使い捨ての音楽」と着地点も備えています。凄い。

5. Recall
先日のライブで「LIPHLICHで一番古い曲」として紹介されていた曲です。
穏やかな曲調で、静かに風景を描こうとしているのが伺えるこの曲は
聴いた時に、とても素直な率直さを感じます。今はきっとこんな曲書いてない気がする。
ポーズや言葉で身を飾ることを知る前に、悲しみというものを曲という形に
誠実に起こしたという感触がします。
こんな曲を今も大切に演奏してくれていることがファン的に有難いことだと感じます。

6. 淫火

「あちらとこちらの間で蝶になりたいなれない人々 列となる」地の果てのような場所で
「香りに侵されて淫火に飲み込まれた」人々を見下ろす「境目の上に立っている偉そうな門番」が
『何度でも味わいたいなら またおいで』という一言を残して、門が閉じられます。
映画的、という言葉を使ってもいいのではないかしら。
映像を見ていないのに地獄のような景色が、音楽を通して見える一曲。

7. 嫌いじゃないが好きではない
凄いタイトルです。これまた耳馴染みのいい体が揺れる音楽の中で朗らかに
「それは僕にとって関係ないことだからお願いさ その口は開けないで」
「別に嫌いじゃないさ 好きではないけど」「どうだって言えるさ 赤の他人だからね!」
と歌詞に沿って口に出す痛快さ。
こんなこと、普段思ったって気を使って口に出さないもの。代謝させてくれてるのだと思います。
というか。こんなことを書いたら私が普通に嫌な奴っていうのがばれてしまうと私が怯んでますが
これを自ら作品にする姿勢を凄いと思います。これっておそらく文学の役割。

8. メリーが嫌う午後の鐘
暖色的なフレーズに引きずり込まれた重厚さの波の上で、登場人物の女の子「メリー」が
カーテンを閉じきった部屋で、午後に弱弱しく鳴る鐘を怖れている情景が描かれます。
「かくれんぼをね していたんだけど 誰も見つけてくれないままで」
「ランプ灯せば 壁の絵画がモノクロと分かる」
「落ちた絵本の3ページでは悪魔が天使を慰めている」
絶対に来ない「13月」を待ち望むメリーに、「僕」はカーテンを開けようと囁きかけます。
4分余りの音楽の中に、映画的な情景を見ることのできる一曲。圧巻。
「Bell is ringing. Bell is ringing.」の繰り返されるフレーズが神々しく時間を止めます。

9. マディソン郡の橋の上で
正直言うと、アルバムの中で一番印象が弱い曲かもしれません。
「真意を無くした言葉が形をすり替えて 季節とともに僕とともに 風になり鳥になり」
「もうじき長い夜は終わるから」「春だって散りゆく中で 僕らきっと永遠さ」
掲題の映画がモチーフなのだと思います。言葉を無くした恋人たちが過去をどう定義するか
穏やかな音楽を背景に揺らぎながら、「想いは部屋に置いてきた もう一度会えるから」と
一線を引く絵画のような一曲。
他の曲に比べて、アルバムの中での印象が弱いという暴言を吐きましたが
聴く度に描かれる絵画の美しさに胸を打たれる曲でもあります。

10. 航海の詩
雨が地を打ち、雷鳴が轟く中で、祈るような合唱が響きます。
嵐の海を形容するかのような重いうねりと、雷鳴のようなシンバルが差し挟まれる視界の中で
「これは僕ら『自由』の反逆の詩」「これは僕ら『自由』の再生の詩」
と自ら歌を力強く定義して、真っ直ぐな視線を世界という名の嵐の海に向けるような
怯みなくLIPHLICHという存在を賭けて、覚悟を表明した宣言の一曲だと感じます。
先日のワンマンで、これから活動していく挨拶に続き、その日最後の曲として演奏された曲で
強く胸に響いたのを憶えています。

11. 淡いドロップ色の髪-Full Version-
ヴァイオリンのような弦楽器の優美な導入に続き、ドラマチックな展開を備えたこの歌の
特筆すべきは「悲しいのは貴方じゃない」という一節の断言の存在感だと思います。
「淡いドロップ色の髪を揺らして 何も変わらない目で僕を見」るかつての恋人に対して
「苦しいの 悲しいの 嘘でしょう すべて芝居に見えるよ」と詰りながら
「悲しいのは貴方じゃない」と苦々しく宣言する「僕」は「今とは違っている物語」を想います。
抒情詩の形を取った、痛々しく悲しい恋物語を定義する美しい一曲だと思います。

12. BABEL(Bonus Track)
なんでこの曲のタイトルが『BABEL』なのか、腑に落ちていない頃から、この歌の
「林檎を放り投げてから落ちるまでの時は 長いのか? 短いのか?」という問いかけと
「林檎を放り投げてから落ちるまでの時は 長いんだってことを知って」という回答が
歩いている時なんかに、不意に口をついて出てくる歌でした。
Bonus Trackとのことですが、この歌が収録されたことを、本当に嬉しく思います。
高い塔の上から、文明の形と精巧な世界と人々の群れを見下ろして、
「欲張りは非現実な世界の空を油絵の具で塗りたくって」いることを
言葉と音楽に表出していることに強く意義を感じます。
軽薄な表現者が用いたら、薄っぺらく頭悪くしか形にできない題材を正面から用いる度量に感服。





既にだいぶ長くなってしまっていますね。。
後は、その他から代表的な曲をかいつまもうと思います。



シングルでPVも作られている『Ms.Luminous』です。

ぶっちゃけて言うと、私この歌を初めてYOUTUBEで見た時に「あ、やられた」と思ったのです。
「もしもアタシが死んだ時には スープにして食べてよね」という一節が
そのうち書こうと思ってずっと暖めてた小説の題材で、しかも形として格好良くて。悔しいです。
それで「この人たち何なんだろう」と気になり始めたのが、LIPHLICHの最初の印象でした。

【追記】
『Ms.Luminous』とそのアンサーソング『月を食べたらお休みよ』に関して考察記事書きました。


同じく上記CDに収められている『My Name Was』もおそらくライブ定番の代表曲。
「名前も顔も知らない人の指先が問う 『君の名は?』」というロマンチックな一節に続き
怒涛と言うべき音楽の波に溺れながら息をして、飲み込まれていく感触があります。
滝のように滴り落ちる波が平らになった後に、溜息のように差し挟まれる
「コーヒーに垂らしたミルクのように 渦を巻いて君とゆっくりと落ちていく」という叙事と
「ソブラニーの香りが目に染みる」
という静けさに怒涛を込めた一つの曲が収斂する瞬間が美しいと思います。



『Ms.Luminous』に続いて昨夏発売された『LOST ICON'S PRICE』は
架空のカルトスター、ICON(イコン)の成功、失墜、没落までの人生の物語を構成曲で表現したLIPHLICH初のコンセプトミニアルバム。
物語の幕を開ける「start to ICON」からライブでの定番曲になりつつあるゴシックナンバー「KNOCK BLACK DOG JOKE」で序章を語り、ICONの夢と絶頂を歌った「夢見る星屑」、憂鬱、失望を楽しげなミュージカルロックに乗せた「フェデリコ9」等、一つの物語を軸に新たな世界を作り出す「LIPHLICH」必聴のミニアルバム。(公式より引用)




印象深い曲を取り上げていきます。
2. KNOCK BLACK DOG JOKE
「ここでさあ 見せてあげる」という一節に牽引される物語の幕開けと
「ここでさあ 見せてくれよ」という一節で行われる「素顔」の要求が魔法のように響きます。
(もし君が僕の犬なら、僕が君の神様になってあげるよ)という内容の英語を
自ら(ただの冗談だよ)と笑い飛ばすのは、格好いいと言わざるを得ないと思います。

3. 夢見る星屑
「初めまして 私の名は夢見る星屑といいます
 なじめません この姿 綺羅綺羅してて 素敵でしょう」
とショービジネスに祭り上げられて間もない少女の独白のような一節に始まるこの曲は
途中から恐ろしいほどに表情を変えます。
「誰かが教えてくれた 金の切れ目は命の切れ目」
「外れた故の絶頂を味わってみたら もうお終い」
「お遊び上手の私の頭の中 ピンクにパープルを混ぜたならばできあがり」
バーレスクで女の色気を売ることを提案されて、「艶めかしいアンヨを突き上げ」ること
チョコレイトを「頬張って堕ちて逝くところまで逝こう」と思う主人公は自分の姿を
「こんな日々は正に星屑のごとくでしょう」と笑います。数分間に封じられた物語の密度。

4. フェデリコ9
慎ましさのあるドラムロールに「ワンツースリーワンツースリー フェデリコナイン」という
強烈なフレーズが差し挟まれて、一気に展開していくジャズにも似た演出のグルーヴィな一曲。
他の曲は概ねボーカルの久我さんが作曲を担当していますが、この曲はベースの進藤さん作曲です。
仕事で忙しい時に、この歌の「あの件、どうなっているの 口癖はいつも一寸待ってくれよ」が
不意に思い出されて「ああああ」ってなります。

5. It’s a good day to anger
めっちゃ早いピアノのアルペジオに牽引される端正な曲に、怒りを込めた詞が乗せられます。
無責任で暴力的な「エトセトラの目」「エトセトラの弁」に怒り、焦り、翻弄されつつ線を引き
「Final countdown」は「tick tack」と時間を刻んでいきます。(ここのライブパフォーマンスが格好いいので見てほしい。杖を秒針に見立てて観客に向けて揺らすのです。)

6. River West
「孤独だって知って 認められなくて 汚れた部屋の中で 眠れなくて祈りを」捧げる歌。
「聴こえるかい? 今なら言えるよ」と誰にも届かない前提で捧げられた祈りは
「聴いて聴いて聴いて聴いて」「生きて生きて生きて生きて」という単語に収斂されて
幕引きを迎えます。

7. LOST ICON’S PRICE
「晴れてさよならさ」「そんな僕の意味 残したものは何?」
光の指す方へ、憂鬱と後悔と幸福を胸に、一人きりで進む人の独白を歌うアルバム掲題の最終曲。
「紅茶飲みながら これで良かったと君は言う」「ねえ 僕の価値 後で分かるかな」
物語の終幕は、孤独と絶望の中で進んでいったように思えるけれど
彼が抱きしめたものの中に「幸福」が含まれていたことに、救いを覚えます。
30分程度のCDの中に映画のように封じ込められた人生の密度と、栄光と絶望の深さは
この曲によりエンドロールへ導かれていくことを感じます。
この作品が断片的なものではないところに、作品への責任感を強く感じました。



三曲入りCD『6 Degrees of separation』は現在完売になっていますが格好いいので再発売を期待してます。
1曲目『VESSEL』は、バンドで世界を描く際の、正統派で系譜的なアプローチだと思いました。
「今は流れてしまうものでも ずっと注いでいると いつか満ちるまで」という一節が
指標として心強く思います。

2曲目の『淫火』は上記参照。
3曲目『thread of salvation』は細かく刻まれる旋律に導入される薄暗い風景画を思わせる一曲。



あと、あれです。ライブ会場限定CDの『PINK PARADE PICTURE SHOW』。

前回も貼ったけど、これまた好きな曲なので、また貼ります。
これ、ライブ来ないと買えないのが勿体ないくらい格好いいと思うのですが。
『猫目の伯爵』に登場するウェンディがこちらでも登場しています。同一人物なのかしら。
曲とアプローチは超ポップながら、盲目的な付和雷同の人々の群れに合流して戻れないというモチーフが
なかなかえぐい社会批判なのかもしれないと、ちょっと思ったりしました。



こうやって書いてみて、どうしても歌の背骨である詞を軸に紹介を書いてしまったけれど
これら幻や物語を形作るのは、彼らの備える質の高い音楽の力に他ならないと思いました。
世界を彩るうねりや、ドンピシャなタイミングで差し挟まれるギターの導きや
ドラムやベースの地盤がないと、もしかしたら届かなかったかもしれない物語なのだと思います。
だからこそ、音楽を用いて人に届く幻を形作るということの凄さを改めて思ったりしました。

すごい長くなってしまいましたが、頑張りました。
格好いいバンドだと思うので、誰かが興味を持ったら嬉しいなあ(^u^)と思います。


☆★追記 20130625

3月に出たMANICPIXIEが特筆すべき格好よさなので貼っときます。

考察記事も書きました。ので良ければ併せてどうぞ。

こんど、7月に出るシングル『マズロウマンション』の試聴が上がってます。
こちらも曲だけじゃなくて、ジャケットやらを含むアプローチが格好良くて眩暈。

B級ホラーが好きな人に反応して欲しい。そして共感して欲しいです。
『マズロウマンション』考察はこちら。

☆★追記 20130629

というか。凄いことに気付いてしまったのですけど。
今まで「絶版だー」とか「完売だー」とか「限定だー」とかでもう買えないと嘆いていたのが
レコチョクで大半ダウンロードできてしまうということに(@_@;)
上記で紹介した曲の、大半はここで落とせます。。

月を食べたらおやすみよとかまでダウンロードできるじゃないか!!まじか!!
浮世のはぐれ蝶初めて聴きました。。

☆★追記 20131007

ニューアルバム『フルコースは逆さから』紹介記事を書きました。
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by pinngercyee | 2013-01-20 16:14 | 音楽