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灰色のワンピースの少女たち

赤い別珍張りの椅子。クラシカルで重厚な店内。円形の天井に教会の聖堂を想う。
ステンドグラスが外界との境を隔て、灰色のワンピースの少女たちが静かに給仕をする。



京都の四条通から木屋町沿いに少し下がった繁華街の中、フランソア喫茶室は密かに在ります。
私はフランソアで働く灰色のワンピースを着た少女たちに憧れていました。

あの制服を着ている限り、彼女たちは『少女』という生き物でした。
私も当時、『少女』と呼ばれる年の頃でしたが
人生で最も素晴らしい年の頃にすら、退屈な日々を過ごすつまらない自分を、私は嫌悪していました。
『少女』という言葉の想起させる華奢さや可憐さ、長い睫も白い手足も
『少女』の美点と呼ぶべきものを、私は何一つ持っていませんでした。

美しい場所で、迷いなく少女として存在する灰色のワンピースの娘たちを
私は何も持たない劣等感の傍ら、羨ましく憧れる気持ちでフランソアへ足を運んでいました。

歴史という名前の膨大な時間を吸い込んだ空間で
少女期という上澄みを何十年も積み重ねられている喫茶室。
珈琲を頼むと初めからクリームが乗って供されるのは、京都独特かもしれません。
クリームの乗ったまろやかな珈琲は、あの少女たちの場所にひどく似つかわしい飲み物に思われました。

美しくあるべきとされる年頃ではなくなってから、私はだいぶ生きるのが楽になりました。
もう何年も訪れていないあの場所は
今も灰色のワンピースの少女たちの居る、清らかで静かな空間であるんだろうなと
遠く離れた東京から、少し懐かしく、少女たちに憧れた季節を思い出して
久しぶりにあの清く重厚な少女たちの聖堂を、訪れてクリーム入りの珈琲を頂きたいなと
少女の齢を過ぎた私は、眠る前にぼんやりと考えたりしています。

フランソア喫茶室
by pinngercyee | 2011-08-31 23:11 | 京都