7月6日に恵文社で催された『恵文社文芸部第一回』に参加させて頂きました。
恵文社という場所の中に存在するものひとつひとつを選んで買って持ちかえり
大切に宝物にするような頃から考えるともう15年もの時間が経っていることに驚きますが
初めてあの場所を訪れた頃の私は、まさかあの会場の中で自作の小説を発表できるとは
願っても到底叶わないことだと思っていました。
憧れと思い入れが在る場所なので、しつこく書いてしまってすみません。
ゆきめちゃんと京都を訪れることも、こんな機会がないと叶わなかったことで
ずっと前から、私の好きな場所を彼女に案内したいと思っていたことも叶って
今回の旅は本当に、私にとって嬉しく特別な数日間になったと思います。
旅に関してはまた追って。
当日、危ぶんだほど雨は降らず、7月といっても暑くは感じないほどに涼しく
私とゆきめちゃんが一乗寺に着いたのは午前10時半頃だったと思います。
叡山電車を降りて、見知った道を辿って、恵文社の前に立つと
私の知っている建物より入口の数が左側に一つ増えていることに気付きました。
この日の会場となる恵文社Cottageは昨年11月に作られたイベントスペースらしく
そう云えば、私はそれ以降でこの場所を訪れていなかったんだなあということに合点します。
先着順で机を選んで良いとのことで、ゆきめちゃんと合同で机を分け合うこの日
私たちは会場奥の角に置かれた長机を選びました。
ぽつぽつと出展者が集まり、それぞれのブースを準備している中で
不意に木の床を踏む足音から、ここが恵文社であることを実感したことを覚えています。
「文学フリマのような大きな催しではないのだし、恵文社目当てのお客さんが覗いてくれればそれでいい」というくらいの気持ちで開始の時間を迎えると、思ったよりも多くの人が会場を覗いてくれて、嬉しかったです。
会場の中央にはアンティークの椅子がいくつも置かれ、足を止めてくれた人は手渡したチラシやサンプル冊子を持って、椅子に座って、イベント会場で忙しない中で目を通すのとは違ったやりかたで、例えば喫茶店で買ったばかりの本を開くようにして、冊子を扱ってくれたことが嬉しく思えました。
混雑する時間はありませんでした。
でもお客さんが途切れる時間もありませんでした。
老若男女様々な方が興味を持って覗き込んでくれて、お話をすることができました。
その中で、友人の顔が不意に現れた時の驚きと喜び。
遠くに住んでいるけれど、ところどころで顔を合わせる小紫ちゃん。
毎年一緒に二人で旅行をしていたけれど、赤ちゃんを産んだから当分は忙しそうで会えないと思っていたふかいちゃん。
京都時代の飲み友達の国生君とピエール。
5月に来た時、おうちにお邪魔してもてなしてくれたゆりちゃん。
その前の夜、バー探偵で隣り合って話をした可愛い女の子であり映像作家であるまいちゃん。
「『スノビズム』を読んで、とても良かったから『マズロウマンション』を買いに来ました」と言ってくださった方がいたことも、嬉しくてとても印象に強いです。
この日、催しの一環として15時頃から朗読の時間があったのですが、目で字面を追うやり方とは違い、会場内の全ての人が息を飲んで耳を澄まして、一本の糸のような表意の声を注意深く手繰っていくやり方での言葉の受け取り方を久しぶりに経験して、とても新鮮に思いました。
22歳の頃に参加していた岡山の朗読詩のイベント『ハッピーヒッピー』以来です。
詩のように奇を衒ったものや散漫なものではなく、この日朗読されたものは意味を通じて手を引いて知らない場所へ連れて行ってくれるような文章が多く、中庭に溢れる柔らかい午後の光と静かな甘音と相まって、とても良い時間を過ごすことができたと思います。
お隣のブースに座っていたのは、詩人のほしおさなえさんでした。私は彼女のことを以前から一方的に知っていて、(というのは、ほしおさんは西岡兄妹の千晶さんと組んで本を出していて、私はそれが好きで、という話は前にも書きましたね)そのことをご本人と挨拶させて頂いた時に言ったら笑ってくださって、とても落ち着いた可愛い人なんだなあと思いました。彼女は140文字で完結する超短編を名刺サイズのカードに刷って、それを販売していて。朗読の時間でほしおさんに指名が来た時に、「では」とその中からいくつかの作品を朗読なさったのだけど、その声が可憐で強く、とても聞きやすい通る声で、そしてその内容が他愛なく可愛らしく、だけど無理だと思える140文字の中にちゃんと物語が在って、着地までしていて、凄いなと感嘆したことを憶えています。言葉の強さと扱い方を知っている方なのだということが実感として感じられたように思います。
「次は、どなたが」
この催しを企画した恵文社の保田さんが司会となって、会場の中を見回した時に、そわそわと周りを見回していると、ほしおさんに腕をつついて「読まないの?」と言われました。私は読みたかったのかもしれません。でも私の持ってきている自作のものは、どれも読むには長すぎる長さの小説ばかりで、それで尻込みをしていたのかもしれません。
声を掛けてもらえたことで、私は固まりそうになっていた決心をして、挙手をしてみました。持ってきた冊子の中から、『スノビズム』を開き、熱を出して眠っているNを見下ろしながらポトフを煮るくだりを、声に出して読みました。自作の小説を音読するのは初めてでした。
人前に立つのが苦手なこともあり、震えそうになる声を震えさせないよう、焦って早口にならないよう、自分の体を従えることの難しさ。でもそんなことを考える隙もないくらいで、私の朗読した言葉は私の口を離れて、午後の空間に溶けて広がり、消えて行きました。言葉の音の消えた先を追いかけようにも、もうどこにも追いかけることはできないのだという実感を抱きながら、私は2ページ程度の文章を、読み上げることなんて全く想定しないまま部屋のPCの前に一人きりで膝を抱えて書いた文章を、文字ではなく声を通して20人以上の人に投げかけました。
(私の声を聞いてくれた人は、私が描こうとしたものを受け取ってくれたのだろうか。)
朗読の催しが終わり、イベントの終了する18時までの時間、再び静かに時間が流れ始めた中で、二人の人が「さっき読んだ物語の、あの前後を知りたくて」と『スノビズム』を求めてくれて、
(なんてことのないシーンを選んでしまったのに、拙い私の声を通してでも、届いたものがあるんだ)ということが感じられ、勇気をもらったように思えました。
終わった後、打ち上げに少しだけお邪魔させてもらい、保田さんと運営を手伝っていた方たちとお話できて良かったです。30分ほどで抜けて、ゆきめと一路京都駅へ。国生君とピエールが買ってきて差し入れてくれた蛸虎のたこ焼きを開けて、この数日間のことを思い返していると気が付くと眠ってしまっていました。
そんなこんなで終わった二日間でしたが、本当にあっという間で、その割に素敵なものを一杯見て、楽しい思いをいっぱいして、嬉しいことが沢山あって、美味しいものをたくさん食べて、久しぶりの友人や、会いに来てくれた方に会えて、特別な時間を過ごすことができたと思います。
参加して良かったです。恵文社文芸部。
ゆきめちゃんと同行できて良かったです。楽しかった!
沢山歩かせてごめんね、私のわがままで見せたいものが沢山あって!
恵文社文芸部は10月に第二回を計画しているそうで、9月の大阪文学フリマと、11月の東京文学フリマの間の日程なので、私はまだ参加を決心しかねているのですけど、可能であれば出られたらいいなあと思っています。
保田さんに「せっかく第二回をやるのに、第一回と同じ人が出展しないほうがいいのではないですか?」と聞いた時、「出たいと思ってくださった人が参加してくれたらそれでいいんです」って言ってくださったので、第二回はどうかわからないけれど、この催しが、第三回、第四回と回を重ねて続いて行けばいいなあと心から思いました。